株式会社スマレジ × PortRay株式会社
プロローグ:「売れてしまう」ことの危うさ
クラウド型POSを中核に店舗オペレーションのOS化を進める株式会社スマレジ(証券コード:4431)。レジ単体から売上分析・在庫管理・決済連携・勤怠給与まで拡張し、データ起点で小売・外食の生産性向上を支えるプロダクト群は市場から高い評価を得てきた。
売上推移の急成長
| 年度 | 売上(億円) | 前年比 |
|---|---|---|
| 2023年4月期 | 59.14 | - |
| 2024年4月期 | 83.85 | +41.8% |
| 2025年4月期 | 110.66 | +32.0% |
順調に見える成長曲線。しかし、その裏側には「プロダクトの良さで売れてしまう」ゆえの課題があった。
当時CTOだった宮﨑氏(現代表)は振り返る。
「エンジニア組織の運営経験しかなかった私が営業組織に介入したのは、ある種の危機感からでした。プロダクトが良いから売れる。それ自体は素晴らしいことです。でも、『営業が育っていない』まま規模だけが拡大していくのは組織として健全ではない。そう感じたんです」
登場人物
目次
第1章:見えていた課題、動けなかった理由
3つの構造的課題
① インバウンドリードへの課題
- • 1件あたりの重要性の認識低下
- • 受注率25%で停滞
② 営業機能の組織内位置づけ
- • エンジニア中心の経営陣
- • プロダクトで売れる状況
- • 営業のプロセス知見や改善が制度に反映されない
③ 特定人材への依存
- • エンタープライズ担当者が1名のみ
- • 理想と現実のギャップ
- • 組織への期待値の変化
インバウンドリードの課題と"ありがたみの希薄化"
スマレジの営業リードは大半がインバウンド。自分で獲得したアポではないため「来た商談をこなすだけ」になっていた。
営業部長の阪本氏はこう語る。
「1件のアポに対する"ありがたみ"が薄れていたんです。当然、受注率も伸び悩む。当時は25%前後でした。一方でマネジメント層は『数字を確認するだけ』に留まりなぜ受注できなかったのか、どう改善すべきかという議論が育成会議に落とし込まれていなかった」
営業の発言権が弱い組織構造
さらに深刻だったのは組織内での営業の立場だった。そしてその背景には会社の成り立ちがあった。
「スマレジはエンジニアリングとWebマーケティングによってうまく成長してきた会社です。経営陣もクリエイターが大半でプロダクトの良さで売れてしまっていた。だからこそ営業内部への数値のこだわりが弱く、営業のプロセス知見や改善が制度に反映されない状態が続いていました」(宮﨑氏)
阪本氏もこの構造を肌で感じていた。
「発言権が弱いまま『営業は営業の仕事をしていればいい』という空気が漂っていました。営業を"機能"として強化する必要性は感じていましたが内部だけで変えるのは難しいと感じていたのも事実です」
エンタープライズ開拓の孤立──理想とのギャップに悩んだ課長
もう一つ見過ごせない課題があった。エンタープライズ案件を主体的に開拓できる人材が当時1名しかいなかったのだ。
課長だった梶本氏は過去に一度マネジメントを経験していた。しかし、組織全体の営業力の底上げという理想と現実のギャップに悩んでいた。
「自分が目指している営業組織の姿と現状との間に大きなギャップを感じていました。メンバーと目標を共有し一緒に成長していきたいという思いはあったのですが、なかなかうまく伝わらない。『このまま一人で走り続けても組織全体は変わらないのではないか』という葛藤がありました」(梶本氏)
宮﨑氏はこの状況を放置できないと考えた。
「梶本さんのような優秀な人材が孤立し自身の理想とのギャップに悩んでいる。これは組織として改善すべき状態でした。彼に『組織が変わる瞬間』を直に見てもらい、再び期待を持ってもらう必要がありました」
第2章:「基礎を徹底する」ことの想像以上の難しさ
誰もが「やるべきだ」と思っているのにできない理由
宮﨑氏が営業組織の強化を決断したのは2年前。まず着手したのは「測定→実行→フィードバック」のサイクル構築だった。
「理屈では誰もが理解しているんです。『評価基準を統一しよう』『録画をレビューしよう』『会議の目的を分けよう』。でも、いざ始めると内圧がかかる。『忙しいのになぜそこまでやるのか』『今のままでも売れているじゃないか』。そういう声が必ず出てきます」(宮﨑氏)
阪本氏も現場の抵抗を肌で感じていた。
「特に、基準を引き上げる瞬間が一番きつい。たとえば、案件受注率の目標を上げたり、配賦ルールを是正しようとすると『なぜ変えるんですか?』と反発が起きる。そのたびに説明するんですが内部の人間が言っても『本当に必要なのか』という疑問が出ることが多かった」
さらにもう一つの壁があった。
「当時は精緻な数値管理や計画がありませんでした。だから目標達成意識の文化を醸成するのに時間がかかった。『なぜ数字にこだわる必要があるのか』という根本的な部分から変える必要があったんです」(宮﨑氏)
「数字会議」と「育成会議」が混ざる罠
もう一つの壁が会議の目的の混線だった。
「数字を確認する会議で育成の話が出てくる。すると『なぜ受注できなかったのか』という議論が個人の追及に変わってしまう。逆に、育成会議で数字の話をすると行動の設計ではなく結果の詰めになる。この混線が改善サイクルを止めていました」(宮﨑氏)
第3章:外部介入──中立の立場が果たした役割
PortRay代表との出会い:中立性が生む"置換力"
こうした状況を打破するため宮﨑氏はPortRay株式会社代表の鹿野に声をかけた。
「自身が営業出身ではなかったこともあり営業出身の人間が入ったほうが現場への説得力があると感じました。でも、いきなり営業幹部を迎え入れるのはリスクが大きい。まずは外部パートナーとして様子を見ながら始めることにしたんです」(宮﨑氏)
なぜ外部なのか?──採用リスクとの比較
宮﨑氏は外部パートナーを選んだ理由を採用との比較で説明する。
「いきなり営業幹部を採用するリスクと比較しました。優秀な営業幹部の年収は1,000万円以上。しかも、適切な人材を見つけられなかった場合は大きな損失です。フィットしなかった場合の教育コストや、最悪の場合は退職による損失もある。一方、外部パートナーなら成果が出なければ契約を調整できる。リスクを最小化しながら専門性を借りられる。これが外部を選んだ理由です」
阪本氏も社内工数の観点から価値を実感している。
「もし社内で同じことをやろうとしたら営業部長クラスの時間を毎週10時間以上使う必要があった。評価基準の設計、会議の運用設計、毎週の録画レビュー──これを片手間ではできません。外部に任せることで、本来の業務(戦略・現場管理)に集中できた。これも大きな価値でした」
そして、外部だからこそ言えることがあった。
「中にいると何も言えなくなるんです。社内だと気を遣って言えないこともある。でも、外部なら関係ない。現場を知らないからこそ言えることもある。その中立性が組織を動かす鍵になると考えました」(宮﨑氏)
鹿野(PortRay代表)に期待したのは単なるアドバイスではなかった。
「鹿野さんに期待していたのは『第三者観点での営業評価』でした。内部では『こうすべきだ』という意見が飛び交ってもそれが具体的な行動や測定に落ちない。でも、外部の中立な立場から『この意見はこういう指標で測れますよね』『その指標はこういう運用で回せますよね』と設計し、実際に動かしてもらうことで議論が前に進むんです」(宮﨑氏)
鹿野はこう振り返る。
「最初の2ヶ月は共通の評価基準の設計に集中しました。評価項目を先に定義し(例:ヒアリング深度・仮説提示・価値合意・次回設計・反論処理)それを面接評価シート・1on1シート・ロープレの採点表にコピーする。『測定の言葉』を統一することで、行動と結果の因果を数字会議でも育成会議でも同じ言葉で語れるようにしたんです」
会議の完全分離──速度と推進力を担保する2レーン設計
次に取り組んだのが会議の再設計だった。ここでの工夫は通常の営業組織ミーティングとは完全に切り離した「教育専門ミーティング」を立ち上げたことだ。
2つの会議の完全分離
| 項目 | 教育専門ミーティング | 通常の営業組織ミーティング |
|---|---|---|
| 目的 | 育成施策の設計と改善 | 数字確認と配賦の意思決定 |
| 禁止事項 | 数字の詰め | 育成の話 |
| 参加者 | 宮﨑氏・阪本氏・鹿野(→最大7名) | 営業組織全体 |
| 頻度 | 週次固定 | 定期開催 |
「初期メンバーは、宮﨑さん・阪本さん・私の3名。この3名ミーティングを『教育だけを語る場』として明確に定義し週次で固定しました。のちに最大7名まで拡大しましたがこのミーティングでは数字が足りない箇所を『教育の問題』として捉える。『なぜ数字が足りないのか』を行動レベルまで分解し育成施策の設計と改善だけに集中することで、議論のスピードと推進力が劇的に上がったんです」(鹿野)
阪本氏も実感を語る。
「通常の営業組織ミーティングではどうしても『今月の数字はどうだ』という話が中心になります。でも、教育専門ミーティングでは『録画レビューでこういうフィードバックをしたらこう改善した』『受注率が低いのはこの行動が足りていないから』という数字を教育課題に変換する議論ができる。この完全分離がサイクルを止めない鍵でした」
宮﨑氏もこの設計の重要性を強調する。
「会議の目的を分けるだけなら誰でもできます。でも『完全に切り離す』という覚悟を持ちそれを毎週守り続けるのは内部だけでは難しい。外部が『今日は数字の詰めは禁止です。数字が足りない理由を教育課題として分解しましょう』と介入することで初めて徹底できたんです」
梶本氏を巻き込む──「組織が変わる瞬間」を直に見せる
この教育専門ミーティングに宮﨑氏は梶本氏を招いた。
「梶本さんには本来の能力を存分に発揮し、自身と同じ目標を一緒に追いかける仲間をつくってほしかった。週次で改善が回りメンバーが成長していく様子をリアルタイムで体感することで、再び期待を持ってもらえると考えたんです」(宮﨑氏)
梶本氏はこの経験を振り返る。
「最初は半信半疑でした。『今回も本当に変わるのだろうか』と。でも、毎週ミーティングに参加するうちに変化への期待が湧いてきました。それを見て『ああ、この組織なら本当に変わる。もう一度期待を持てるかもしれない』と思えたんです」
この経験が6ヶ月後の転機につながる。
「梶本さんにエンタープライズ部署の立ち上げメンバーになってもらいました。もう1名のメンバーと2人体制でしたが梶本さんがメインプレイヤーとして部署を牽引してくれた。彼が再び期待を持って取り組んでくれたからこそ部署の立ち上げが成功したんです」(宮﨑氏)
梶本氏は当時の心境をこう語る。
「もう一度『この組織なら頑張れる』と思えたことがすべてのスタートでした。一度理想と現実のギャップに悩んだ経験がある人間にとって『期待してもいい』と思える瞬間が何より大きかった。その期待に応えたい。そう思えたからエンタープライズ部署の立ち上げに全力で取り組めたんです」
もう一人の転機──フィードバックを受ける側から与える側へ
梶本氏とは別にもう一人、この取り組みで大きく成長したメンバーがいた。初期の教育対象者として選ばれたある営業メンバーだ。
阪本氏はこのメンバーの変化を鮮明に覚えている。
「当時、彼は受注率が伸び悩んでいました。20%前後で停滞していたんです。でも、録画レビューと1on1を毎週繰り返すうちに明らかに商談の質が変わっていった。ヒアリングの深さ、仮説の提示、次回設計──すべてが段階的に改善され半年後には受注率が35%を超えるようになりました」
鹿野はこの成長の鍵を「言語化」だと指摘する。
「彼はフィードバックを受けるたびに『なぜ受注できたのか』『なぜ失注したのか』を自分の言葉で説明できるようになっていった。それが次の転機につながったんです」
転機は受注率が安定してから訪れた。
「彼に『今度は自分が受けていたフィードバックを他のメンバーに与える側になってほしい』とお願いしました。最初は戸惑っていました。しかし、自分が学んだことを言語化して伝える経験がさらに彼自身の理解を深めることになったんです」(阪本氏)
フィードバックを与える側になってからさらに変化が起きた。
「フィードバックの質が上がるにつれ彼の周りのメンバーの受注率も改善し始めました。それを見た経営陣が『この成果を拠点全体に広げてほしい』と判断し、彼をリーダーに昇格させたんです」(宮﨑氏)
そしてプロジェクト終了後、彼は拠点責任者に任命された。
「教えられる側から、教える側へ。そして組織を作る側へ。この変化は彼自身の努力もありますが『基礎を徹底する』サイクルが組織に根付いた結果だと思います。彼のような成長事例が他のメンバーに『自分も変われる』という希望を与えてくれました」(阪本氏)
第4章:短期の成果──「実践できる」具体施策
4つの核となる施策
施策1:録画レビューの徹底運用
取り組み開始から最も効果が早く現れたのが録画レビューだった。
運用設計の詳細:
- 保存先:個別フォルダを作成し全メンバーの商談を格納
- 抽出基準(初期):自信のある商談を中心に週2本以上をレビュー
- 抽出基準(中期以降):受注率が改善したメンバーは完全ランダム抽出に切り替え全商談のクオリティを担保
「最初は『自信のある商談を見てほしい』というメンバーが多かったですがそれでも改善点は必ず見つかりました。フィードバックを繰り返すうちに受注率が上がったメンバーには、完全ランダム抽出に切り替えることで『どの商談でも一定のクオリティを保てる』状態を作りました」(阪本氏)
鹿野はレビューの質を重視した。
「ただ見るだけでは意味がない。必ず『先週の振り返り』『現状のウォッチ』『次週の改善点』をセットで伝える。この3点セットを毎週回すことで行動の変化が数字に直結するんです」
施策2:1on1の構造化──報告→フィードバック→組織展開のサイクル
1on1も明確な構造で実施された。
運用設計の詳細:
- 頻度:週1回
- 時間:1時間〜1.5時間
- フロー:①先週の報告→②フィードバック→③組織展開のための改善設計
「1on1は単なる『困りごとを聞く場』ではなく『組織全体をどう良くするか』を設計する場でした。個別の課題を聞いた後『この改善を他のメンバーにも展開するには?』と必ず問いかける。それが再現性の担保につながりました」(鹿野)
阪本氏もこの構造の重要性を語る。
「1on1で終わらせない。必ず『組織にどう還元するか』まで考える。これを毎週繰り返すことで個別最適ではなく全体最適の改善が回り始めたんです」
施策3:ロープレの個別実施と評価項目設計
ロープレは個別対応で実施された。
「私は直接関与していませんが評価項目の設計を支援しました。重要なのはロープレの評価項目が、録画レビュー・1on1・面接評価シートと同じ語彙であること。これにより『ロープレで指摘されたこと』が『実商談でも改善される』サイクルが生まれました」(鹿野)
施策4:配賦ルールの「極端な振り分け」戦略
配賦ルールは一般的な「平準化」ではなく、意図的に極端な振り分けを行った。
「初期段階では、受注率の高いメンバーに受注可能性が高い商談を集中的に振り分けました。一見不公平に見えますが狙いは『受注経験を積む』ことです。受注を繰り返す中でフィードバック・ロープレを徹底し、『なぜ受注できたのか』を言語化する。そのノウハウを下位メンバーに展開し、配賦を徐々に調整していく。この段階的な振り分け変更が組織全体の底上げにつながりました」(鹿野)
阪本氏はこの戦略の難しさを語る。
「最初は『なぜあの人ばかり良い案件をもらえるのか』という不満も出ました。でも『まず成功パターンを作りそれを全員に共有する』という意図を説明し、実際に成果が出始めると納得感が生まれたんです」
第5章:短期の成果──半年で現れた数字の変化
取り組み開始から半年。数字に明確な変化が現れた。
受注率の改善
案件受注率(月次):25%→35%(+10pt / 相対+40%)
| 指標 | 開始前 | 半年後 | 改善幅 |
|---|---|---|---|
| 受注率 | 25% | 35% | +10pt |
| 相対改善率 | - | - | +40% |
| 月間商談数(1名) | 30-35件 | 30-35件 | - |
| 月間受注増(1名) | - | +3-4件 | - |
「この数字は『基礎をやり切る』ことの成果です。録画レビュー、1on1、ロープレ、配賦ルール──すべてが同じ評価基準でつながり、週次で改善サイクルが回り続けた結果、行動の質が上がった。それが受注率に直結しました」(宮﨑氏)
阪本氏も手応えを感じていた。
「運用が安定したことで意思決定のスピードも上がりました。教育専門ミーティングと通常の営業組織ミーティングが完全分離されたことで、『何を決めるべきか』が明確になり議論が前に進むようになったんです」
投資対効果──受注率向上が生んだインパクト
宮﨑氏はこの取り組みの投資対効果をこう振り返る。
「営業1名あたり月に30〜35件の商談をこなしています。受注率が10ポイント上がるということは月に3〜4件の受注増。初期費用だけでも20万円ですから、単純計算で1名あたり月60〜80万円の売上増です。当時、フィールドセールスが20〜30名、インサイドセールスや支援を含めると40〜50名の組織でしたから月間で相当なインパクトがあった。これが半年で実現したわけです」
阪本氏も費用対効果の観点から外部支援の価値を語る。
「外部支援のコストは受注率向上による売上増と比較すれば圧倒的に回収できる投資でした。しかも、この改善は一過性ではなく仕組みとして定着する。採用した場合のリスクや社内工数を考えれば、非常に合理的な判断だったと思います」
第6章:営業の発言権が強化された理由──成果が先、可視化は後
数字以上に大きかったのは組織内での営業の立場の変化だった。しかし、その順序が重要だった。
「誤解されがちですが、データの可視化が先ではなく成果が先なんです。受注率が上がり売上が伸びた。その成果があったからこそ経営からの評価が変わった。可視化はその成果を説明するための『言語』に過ぎません」(阪本氏)
宮﨑氏も同意する。
「『データを可視化すれば発言権が得られる』という順序は間違いです。まず成果を出す。その成果をデータで説明できるようにする。この順序が、営業を"機能"として強化することにつながったんです」
第7章:長期の成果──2年後に効く「面の仕込み」
しかし、本当の成果は2年後に現れた。
2年間の成長タイムライン
「2年前、エンタープライズ部署を発足させたとき私たちは対象部門・役職・頻度を設計して"面で接点を仕込む"ことを決めました。これは偶発ではなく、意図的な設計です。そして今期その仕込みが少しずつ成果として出始めています」(宮﨑氏)
梶本氏はこの長期視点を実感している。
「エンタープライズ案件は短期では成果が出ません。でも、2年前に組織の変化を直に見たことで『この組織なら長期戦を戦える』と確信できた。それが、今の継続的な受注につながっています」
鹿野はこの長期視点を強調する。
「今日の基礎が2年後に効く。スマレジさんの現在の成果は、2年前に『測定→実行→フィードバック』のサイクルを回し始めた帰結なんです」
増員耐性──40〜50名から166名へ
もう一つの長期成果が増員耐性だった。
組織の急速な拡大
| 役割 | 2年前 | 現在 | 成長率 |
|---|---|---|---|
| フィールドセールス | 20-30名 | 54名 | 1.8-2.7倍 |
| インサイド+支援 | 20名前後 | 112名 | 約5.6倍 |
| 合計 | 40-50名 | 166名 | 3.3-4.2倍 |
「2年前はフィールドセールスが20〜30名、インサイドセールスや支援を含めると40〜50名でした。現在は、フィールドが54名、インサイドセールスや支援が112名で、合計166名に拡大しています。でも、オンボーディングから自走までの期間は短縮されている。これは『基礎を徹底する』サイクルが組織に根付いた証拠です」(阪本氏)
鹿野はこう解説する。
「評価基準が統一され、録画レビュー・1on1・ロープレが標準化されているので新しいメンバーが入っても『何を学べばいいか』が明確です。これが、再現性の担保につながっています」
マネジメント層の役割転換
もう一つの変化は、マネジメント層の役割だった。
「以前のマネジメントは『詰める人』でした。でも今は『行動を作る人』に変わった。支援者KPI(レビュー件数・改善伴走の成果)を明文化したことで『良いマネジメント行動』が評価対象になったんです」(阪本氏)
第8章:それでも「続ける」のは難しい──外部が効く理由
痛みを伴う改革を受け入れる
宮﨑氏は組織変革において最も重要だったことを振り返る。
「痛みを伴うことを受け入れること。これが一番重要でした。基準を引き上げ、配賦ルールを変え、会議の運用を分離する。どれも摩擦を生みます。実際、既存社員の一部が退職するハレーションもありました」
阪本氏も同意する。
「現状維持では衰退する。役職者がその覚悟を持たないと改革は進みません。でも、その覚悟を持ち続けるのは内部だけでは難しい。外部が『やり切らせる役』を担うことで初めて貫けたんです」
失敗パターン1:基準の引き上げで内圧がかかり先送りされる
宮﨑氏は外部の重要性をこう語る。
「基準を引き上げると必ず反発が起きます。『忙しいのになぜそこまでやるのか』。この反対意見を内部の人間が定量言語で潰すのは難しい。でも、外部が『この指標で測るとこういう差が出ています』と示すことで議論が前に進むんです」
失敗パターン2:会議の目的の混線が戻り、設計議論が消える
阪本氏も実感を語る。
「会議の目的の分離も同じです。最初は守れていても、忙しくなると『今日は一緒にやっちゃおう』と混ぜてしまう。でも、外部がアジェンダ監査を担うことで毎週ブレずに守れる。これがサイクルを止めない鍵なんです」
失敗パターン3:配賦ルールが戻り学習機会が偏る
鹿野はこう指摘する。
「案件を均等に振り分けることで、一見公平に見えますが実際は学習機会の偏りが生まれてしまいます。外部が配賦ダッシュボードで状況を可視化し月次で意図的な振り分け戦略を是正することで、全員が適切な学習機会を得られる。これが、再現性の担保につながります」
宮﨑氏は結論づける。
「基礎を徹底するほど摩擦は増えます。でも、外部が中立の立場から設計し、動かし続けることで、測定→実行→フィードバックは止まらない。これが外部が効く理由です」
第9章:なぜスマレジで働くのか?──3人が語るこの組織の魅力
プロジェクトを振り返るとき、3人はそれぞれ「なぜスマレジで働くのか?」という問いに異なる角度から答えを持っていた。
宮﨑氏:「当たり前のことを、当たり前にやる」
「私はずっとこの会社にいるので他社との比較はしづらいですが、スマレジは本当に良い会社だなと思っています。各部署に能力の高いメンバーがいるし、東京のキラキラベンチャーとは違う魅力がある。当たり前のことを、当たり前にやる文化があると思っているし、それを真面目に極めていきたいなと思っています」
宮﨑氏の言葉には「コツコツ積み上げる文化が、10年後の成果を生む」という確信があった。
「大切なのは1日1日の積み重ね。結局は創業以来大事にしてきた、ちゃんと良いものを作って、たくさん買ってもらって、しっかり使ってもらうことを地道にやっていくだけかなと思っています。そのスタンスを大事にしたい」
引用元:【代表交代の裏側】スマレジ、新しいステージへ。
阪本氏:「営業がちゃんと評価される」
阪本氏は営業という職種の立場が変わったことに最も大きな意味を感じていた。
「以前は『プロダクトが良いから売れる』と言われ、営業の貢献が正当に評価されない空気がありました。でも今は違う。行動→学習→結果の連鎖が可視化され、発言権が成果設計の言語で担保される。営業が"機能"として認められている。これが、この組織の魅力だと思います」
さらに阪本氏は「データで語れる」ことの重要性を強調した。
「感覚ではなく、データで語れる。それが、営業としての自信につながります。『なぜこの施策が必要なのか』を数字で説明できる。その積み重ねが組織全体の信頼を生んでいると実感しています」
梶本氏:「もう一度挑戦できる」
梶本氏にとって、スマレジの魅力は「期待を持てる組織」であることだった。
「一度うまくいかなかった経験がある人間にとって『もう一度挑戦していい』と思える環境がどれだけ貴重か。この組織は、過去を責めるのではなく『次はどうする?』と一緒に考えてくれる。それが再び期待を持てる理由です」
梶本氏はエンタープライズ部署の立ち上げを通じてこの組織の本質を理解した。
「週次で改善が回りメンバーが確実に成長していく。その積み重ねが、2年後のエンタープライズ受注につながっている。『今日の努力が2年後に報われる』という実感を持てる組織はそう多くないと思います」
この組織を一緒に作っていく
3人の語りに共通していたのは「この組織はまだ完成していない」という認識だった。
「評価基準の高度化、支援者KPIの高度化──やるべきことはまだまだあります。でも、それを一緒に作っていける仲間がいる。それがこの組織の強みだと思っています」(宮﨑氏)
阪本氏も同意する。
「『基礎を徹底する』という地味な取り組みですが、それが確実に成果につながることを証明できた。この文化をさらに広げていきたい。そのために、同じ価値観を持つ仲間と一緒に働きたいと思っています」
梶本氏は、最後にこう締めくくった。
「失敗を恐れず、挑戦できる。成長を実感できる。そして、その成果が組織全体に還元される。そんな環境で働きたい人にとってスマレジは最高の場所だと思います」
第10章:今後の展望──「今からやる」ことの重要性
支援者KPIの高度化
阪本氏はマネジメントの質をさらに高める構想を語る。
「レビュー"量"だけでなく改善伴走の"質"(行動変容の有意差)を評価する仕組みを作りたい。これが、次世代のマネジメント層を育てる鍵になると考えています」
エピローグ:「設計で勝ち、運用で守る」──再現性の正体
宮﨑氏は最後にこう締めくくる。
「短期は数字で勝つ。長期は仕組みで勝つ。その両者をつないだのは『基礎をやり切る』という地味な決断と、測定×実行×フィードバックを同じ言葉で毎週回し続けたことです」
阪本氏も同意する。
「自社だけでやろうとすると必ずどこかで止まります。でも、外部の中立な立場が入り"やり切らせる役"を担うことで、サイクルが回り続ける。これが再現性の正体だと実感しています」
鹿野は経営層にこう呼びかける。
「『明日からできる』最小実装はたった6つです。(1)共通の評価基準A4一枚、(2)面接評価シート3問の差し替え、(3)録画2本/週の運用ドキュメント化、(4)1on1シート統一、(5)会議の完全分離宣言、(6)プロセス加点1行追加。2週間で立ち上げ、8週間で定着させる。以降は、毎週同じことをやり切るだけです」
「難しいのは『続ける設計』です。そこに、外部の中立性が効きます。設計で勝ち、運用で守る──それがスマレジさんが手に入れた再現性の正体です」
明日から始める「M–D–F起動キット」(最小実装6点)
● 2週間で立ち上げ、8週間で定着させる6つのステップ
1. 共通の評価基準A4一枚を作る
- 定義と例文つき
- 例:ヒアリング深度/仮説提示/価値合意/次回設計/反論処理
2. 面接評価シート3問を差し替え
- 質問=意図/期待回答/評価基準の3点セット
3. 録画2本/週の運用をドキュメント化
- 保存先:個別フォルダ作成
- 抽出基準(初期):自信のある商談を中心に
- 抽出基準(中期以降):受注率改善後は完全ランダム抽出
- レビュー内容:先週の振り返り+現状ウォッチ+次週の改善点
4. 1on1シートを統一
- フロー:①報告→②フィードバック→③組織展開設計
- 「個別最適で終わらせない」を徹底
5. 会議の完全分離を宣言
- 教育専門ミーティング(週次):数字の詰めは禁止。数字が足りない箇所を「教育の問題」として捉え育成施策の設計と改善だけに集中
- 通常の営業組織ミーティング:数字と配賦の意思決定
- 外部によるアジェンダ監査で混線を防ぐ
6. プロセス加点を評価票に1行追加
- 提出率/改善実施/仮説提示/次回設計から1つ選択
目安:2週間で立ち上げ、8週間で定着。以降は壊さず"毎週同じこと"をやり切る。
配賦ルールの極端な振り分け戦略
- 初期段階:受注率の高いメンバーに受注可能性の高い商談を集中配賦
- 狙い:「受注経験」を積み、成功パターンを言語化
- 中期以降:フィードバック・ロープレで固めたノウハウを下位メンバーに展開し、配賦を段階的に調整
- 「平準化」ではなく「意図的な偏り→段階的調整」で組織全体を底上げ
取り組みの成果まとめ
短期成果(半年で可視化)
長期成果(2年で定着)
実践のための具体的施策詳細
録画レビューの運用設計
保存と抽出:
- 個別フォルダを作成し、全メンバーの商談を格納
- 初期段階:自信のある商談を中心に週2本以上をレビュー
- 中期以降:受注率改善メンバーは完全ランダム抽出に切り替え、全商談のクオリティを担保
レビュー内容(3点セット):
1. 先週の振り返り
2. 現状のウォッチ
3. 次週の改善点
狙い:「この3点セットを毎週回すことで、行動の変化が数字に直結する」
1on1の構造化
基本設計:
- 頻度:週1回
- 時間:1時間〜1.5時間
フロー(3ステップ):
1. 先週の報告
2. フィードバック
3. 組織展開のための改善設計
重要原則:「個別最適で終わらせない。必ず『組織にどう還元するか』まで考える」
会議の完全分離設計
教育専門ミーティング:
- メンバー:起動時3名(宮﨑氏・阪本氏・鹿野)→最大7名まで拡大
- 頻度:週次固定
- 内容:育成施策の設計と改善のみ。数字が足りない箇所を「教育の問題」として捉え、行動レベルまで分解する
- 監査:外部(鹿野)がアジェンダチェックを担い、混線を防ぐ
通常の営業組織ミーティング:
- 内容:数字確認と配賦の意思決定
- 育成の話は一切しない
狙い:「完全分離により、設計議論のスピードと推進力が劇的に向上」
配賦ルールの極端な振り分け戦略
初期段階:
- 受注率の高いメンバーに、受注可能性が高い商談を集中配賦
- 狙い:「受注経験」を積み、フィードバック・ロープレで成功パターンを言語化
中期以降:
- 言語化したノウハウを下位メンバーに展開
- 配賦を段階的に調整し、全体の底上げを図る
重要原則:「平準化ではなく、意図的な偏り→段階的調整で再現性を担保」
企業情報
株式会社スマレジ(証券コード:4431)
クラウド型POSを中核に"店舗オペレーションのOS化"を進める上場SaaS企業。レジだけでなく、リアルタイム売上分析・在庫管理・決済連携・勤怠給与(HR)まで拡張し、データ起点で小売・外食の生産性向上を支えるプロダクト群を展開。
PortRay株式会社
営業組織の「測定→実行→フィードバック」サイクル構築を支援する外部顧問サービスを提供。共通の評価基準(OSUMITSUKI)を軸に、採用・育成・評価の一気通貫支援を展開。
営業組織の強化・採用にご興味がある方へ
PortRayが提供するサービス
1. 営業組織強化支援(育成サービス)|OSUMITSUKI「スキルの拡張パック」
育成を"研修"ではなく、再現性のある仕組みとして実装する育成支援です。
提供内容(例)
- 共通評価基準の設計(育成の"差分"を明確化)
- 会議/1on1の運用設計(アジェンダ設計・改善ループの定着)
- 録画レビュー・1on1の仕組み化支援
- 配賦ルールの最適化と可視化
2. 採用戦略設計〜実務代行(RPO)|「採用を、評価から再現する」RPOサービス
「〇〇さんみたいな人」を、評価データから再現して採用するRPOです。"感覚採用"を"再現採用"に変えるモデルとして、共通評価基準×自社の評価データで設計します。
支援領域(例)
- 採用戦略:要件定義/計画設計/媒体選定/選考フロー設計/評価設計/体制構築
- 採用実務:母集団形成/面接代行/評価レポーティング/エージェントコントロール/面接官教育
3. 転職のセンター試験(OSUMITSUKI)
2次面接確約の転職サービスです。登録後にWeb面接を行い、合格企業のみ2次・最終面接から応募できます。1度の面接で複数企業の合否が一括で分かる仕組みです。
実績
- 累計契約企業数:現在200社 転職のセンター試験OSUMITSUKI
お問い合わせ先
営業組織の強化(育成)・採用の再現性向上(RPO/OSUMITSUKI)にご興味がある方は、下記よりご連絡ください。
PortRay株式会社
- 公式サイト:https://portrayinc.com/
- お問い合わせ:info@portrayinc.com
登場人物(詳細)
宮﨑 龍平氏(現代表取締役)
当時の役割:CTO
エンジニア組織の運営経験のみで営業組織の経験はゼロ。しかし、人事組織への介入経験を経て営業組織強化の必要性を痛感し、自ら意思決定。「経営陣はクリエイターが大半でエンジニアリングとWebマーケティングによって成長してきた会社。営業出身ではない自分だからこそ、外部の力を借りる必要があった」と振り返る。
起動後は旗振り役として週次の意思決定ループ(教育専門ミーティング)を主導。「中にいると何も言えなくなる。外部の中立な立場だからこそ言えることがある」という信念のもと組織変革を推進。
プロジェクト後:
現在は「当たり前のことを、当たり前にやる文化を真面目に極めていきたい」という信念のもと、組織を牽引。
阪本氏(営業部長)
役割:現場実装の責任者
配賦ルールの是正、録画レビュー運用、評価基準の統一を推進。教育専門ミーティングの起動メンバーとして週次で改善サイクルを回し続けた。
「内部の人間が言っても『また理想論か』で終わってしまう。でも、外部が数字で示すことで議論が前に進んだ」と外部介入の重要性を実感。特に、録画レビューの週次運用と配賦ルールの極端な振り分け戦略を現場で実装し半年で受注率+40%という成果を生み出した。
組織への影響:
「以前は『プロダクトが良いから売れる』と言われ営業の貢献が正当に評価されなかった。でも今は、行動→学習→結果の連鎖が可視化され、発言権が成果設計の言語で担保される」と語る。営業を"機能"として強化することに成功。
鹿野(PortRay株式会社 代表取締役)
役割:設計・実働支援担当
評価基準の設計、1on1/ロープレ/会議への落とし込み「意見→指標→運用」の置換を伴走。教育専門ミーティングの起動メンバーとして、外部の中立性を活かしたアジェンダ監査とサイクルを設計し動かし続ける役割を担う。
提供した価値:
「最初の2ヶ月は共通の評価基準の設計に集中。評価項目を先に定義し、面接評価シート・1on1シート・ロープレの採点表にコピーすることで『測定の言葉』を統一した」。さらに、会議の完全分離設計により「数字が足りない箇所を『教育の問題』として捉え行動レベルまで分解する」議論を実現。


