部下を叱る際のパワハラリスクと現状
パワーハラスメント防止法(改正労働施策総合推進法)が2020年6月に大企業、2022年4月に中小企業にも適用されて以降、適切な指導とパワハラの境界線が曖昧になり、多くのマネージャーが指導に消極的になっているという声が現場から聞かれます。厚生労働省の令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」では、ハラスメント対策を進める上での課題として「ハラスメントかどうかの判断が難しい」と回答した企業が59.6%にのぼり、管理職が指導の線引きに苦慮している実態が浮かび上がっています。
しかし、部下の成長のためには適切な叱り方は必要不可欠です。重要なのは、建設的な指導とパワハラの違いを明確に理解し、適切な方法で叱ることです。
パワハラに該当する叱り方の具体例
まず、避けるべきパワハラに該当する叱り方を明確にしましょう。厚生労働省が示すパワハラ6類型をもとに、叱り方の文脈で特に注意すべき行為を整理します。
身体的な攻撃
- 机を叩く、物を投げる
- 肩を掴む、突き飛ばす
- 威圧的な態度で詰め寄る
精神的な攻撃
- 人格を否定する発言(「君は向いていない」「使えない」)
- 大勢の前での過度な叱責
- 業務上の必要性を超えた長時間の継続的な叱責
- 感情的な暴言や侮辱的な言葉
なお、厚生労働省の指針では、パワハラに該当するかどうかは「業務上の必要性・相当性」「言動の態様・頻度・継続性」「労働者が受ける精神的苦痛の程度」などを総合的に判断するとされており、時間の長短だけで一律に判断されるものではありません。
人間関係からの切り離し
- 必要な情報を共有しない
- 会議から意図的に外す
- 同僚との交流を禁止する
効果的で適切な部下の叱り方5つのポイント
1. タイミングと場所を選ぶ
問題が発生したらできるだけ早期に対応することが重要です。ただし、感情的になっている時は避け、冷静になってから対応しましょう。場所は個室や人目につかない場所を選び、部下の尊厳を保護することが重要です。
2. 行動に焦点を当てる
人格ではなく、具体的な行動や結果に焦点を当てて叱ります。
【良い例】「今回の企画書の数値根拠が不足していました。次回は市場データを3つ以上含めてください」
【悪い例】「君はいつも詰めが甘い」「やる気があるのか」
3. 「SBI+I」フレームワークを活用
SBI(Situation・Behavior・Impact)は組織行動学で広く活用されているフィードバック手法です。叱り・指導の場面では、ここに「Improvement(改善策)」を加えた以下の構成が有効です。
| 要素 | 内容 | 例文 |
|---|---|---|
| S(Situation) | 状況の説明 | 「昨日のクライアント面談で」 |
| B(Behavior) | 具体的な行動 | 「資料の準備が不十分でした」 |
| I(Impact) | その影響 | 「お客様に不信感を与える結果となりました」 |
| I(Improvement) | 改善策 | 「次回は前日までにチェックリストで確認しましょう」 |
4. 感情をコントロールする
叱る際は冷静で毅然とした態度を保つことが基本です。声を荒げたり威圧的な口調になると、それ自体がパワハラと受け取られるリスクが高まります。感情的になりそうな時は「一度整理する時間をください」と伝え、時間を置くことも有効です。
5. フォローアップを必ず行う
叱った後は適切なタイミングでフォローアップを行います。改善状況を確認し、良い変化があれば必ず認めて褒めることで、部下のモチベーション維持につなげます。






